![]() 部屋の隅でガタゴトと物が揺れる音がする. オレはその方向を見ない. 何が揺れているか,なぜ揺れているのかはわかっている. ことの始まりは4年前のことだった. 4年前,オレは共通のギターの師から学んでいた友人から一本のエレキギターを譲り受けた. エレキギターは何本か持っていたが調度ほしい音が当時友人がサブに使っていたギターとドンピシャだった. 友人は中古で買ったものだし,サブとして使っている物だからと,破格の値段で譲ってくれた. 悪いと断ったが「お前だから」といって笑顔で渡してくれた. その友人の口癖はプロのギタリストになりたいだった. でかいステージで何千人もの観客の前で演奏したい. プロ思考の塊でいつもそればかり言っていた. そんな友人はあるライブの打ち上げの帰り道,酔っ払ってふざけて路上に出た時に車に轢かれ短い生涯に幕を閉じた. 別な友人から連絡を受け俺が病院に向かった時にはすでに危篤状態だったがオレを見た瞬間,オレの手を握り消え入りそうな声で自分の変わりにプロになってほしいと言った. オレはそんな友人を見てプロになることを約束した. あれから4年,オレはギターを弾くことを辞めてしまった. あの約束からずっと必死にやってきたがインディーズから売れないアルバムを一枚出しただけで,友人が夢見ていたようなことは達成することはまるで出来ず,諦めていた. ギターをまるで弾かなくなってから一年が経ったころから異変は起きた. 夜中友人からもらったギターがガタガタとゆれたり,誰も弾いていないのに不協和音を奏でたりと奇怪なことが続くようになった. それがしばらく続くと夢に必ず友人が後ろ姿でたっており,「・・ぇ・・ぇ」と何かを唱えているのだ. ハッキリとは聞こえないが弾け弾けといっているのだろう. オレはそれが一月も続くようになってからそのギターを部屋の隅の目の届かない場所に押し込んだ. そしてお札を貼ったり,御払いをしてもらったがまるで効果はなかった. 友人の墓にも行って詫びたが,奇怪な現象は続き夢にもいつも後ろ姿の友人が立っていた. 友人はオレを許してくれないのだ・・・俺が自分の望んだレベルのことを達成できていないから,俺が彼の夢を引き継いだのに諦めてしまったから. 奇怪な現象が一年も続いたころ俺はノイローゼになり自殺を計ろうとした. そんな時,昔のバンド仲間から電話がかかってきた. その電話は正に俺の人生を変えるものだった. 以前俺たちが出したまるで売れなかったアルバムが今年に入ってからバカ売れしているとのもので,在庫がないため,再度プレスし直すというものだった. どうやら自分たちのジャンルと似たようなバンドが複数出現し,チャートを賑わすようになり,俺たちのバンドも見直されるようになったことが原因らしい. 他にもメジャーレーベルからもまた新たにアルバムを製作しないかと以来がきたりと耳を疑うようないいニュースが飛び込んできた. それから3年,オレは気が付けば有名な歌番組からも大御所のギタリストとして扱われるようになり,国民の誰もが最低でも名前だけは知っているギタリストになった. 最近では滅多に自宅に帰ることもままならないくらい忙しかったが今なら友人も納得してくれたはずだ. そう思い,友人の墓参りを済ませた後,自宅に戻るとしまってあった例のギターを取り出し,弦を張替え寝るまで何度も友人に語りかけるようにギターを弾いた. そして安心して床についた. 夢を見る. 数年ぶりにあの夢だった.だがもう恐れはない. オレは自信をもって友人に会える. 後ろ姿の友人が現れるとオレはこれまでの苦労や思い出,偉業を友人に話しかける. 友人は後ろ姿のまま動かない. オレはなんとなく友人が夢に現れるのはこれが最後なのではないか,そんな予感がしていた. きっと友人の夢は叶い,オレも責任を果たしたため,もう夢に出てくる必要もなく,成仏するのだ. そう思うと悲しくなり,オレは最後に友人の顔を見たくなった. 「なあ,最後に一目顔をみせてくれないか?別れがいいたいんだ」 友人は小さな声で何か呟いている. 友人もきっと悲しいのだ. オレはすぐ側まで行き,友人の肩に手を置き,振り向かせた. すると「しねぇ〜!!」と叫ぶ知らない男の顔がそこにあった. |