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No235 の記事


■235 / )  カナリア
□投稿者/ 山本英司 -(2005/03/14(Mon) 02:47:46)
http://www.shirous.com/canary/
    この掲示板には初めてになりますね。

    で、情報公開請求シリーズと同じく掲示板の流れを無視した長文投稿となりますが、
    失礼の段はお許しいただきたいと思います。

    ということで、公開初日の3月12日、映画『カナリア』(塩田明彦監督)
    http://www.shirous.com/canary/
    を観にシネ・リーブル梅田まで行ってまいりました。
    私が入ったのは13:20予告編開始の2回目の上映でしたが、
    客の入りは半分程度、いわゆるアート系の映画館としてはまあまあというところでしょうか。

    それにしても、上記のサイトから予告編がストリーム配信されていますが、
    それを見た段階では、と言うより科白や歌声を聞いた段階では、
    「何だかなあ」という感じだったのですが、
    まあ、オウマーの義務ということで劇場に足を運んだ次第です。

    で、感想ですが……。
    ちょっとこれは、お薦めできませんねえ。
    まずもって筋運びが荒唐無稽なのはもとより、
    こんなに「オウム寄り」でいいのかな? と。
    あと、結局これって自己満足じゃないの? と。

    カルト教団「ニルヴァーナ」から「保護」された主人公・光一が、
    自分を置き去りにして祖父が引き取っていった妹・朝子を取り戻すため、
    関西の児童相談所を脱走する、というところから話が始まるのですが、
    なんで裸足で田舎道を走っていくのか。
    やがて廃校で運動靴とドライバーを手に入れ、
    そのドライバーは物語の中で重要な役割を果たすようになるわけですが、
    ちょっとこういう不自然な演出はいただけませんねえ。

    やがて光一は援助交際をしている家庭的に恵まれない少女・由希と出会い、
    ともに東京を目指すことになるわけですが、
    そのあたりの展開は「お約束」だから許せるにしても、
    由希が12歳の裸を「オッチャン」に見せることで2万円(だったと記憶する)
    を稼いだ後、「行ける所まで電車で行こう」と電車に乗り込んだ後、
    田舎道を歩くシーンに続いていくわけですが、何で途中下車するのか全く理解できません。
    JRの東海道線に乗れば東京まで辿り着けるではないか!

    それから何とかして2人は東京に辿り着いたわけですが、
    娘(光一の母)がテロ事件の犯人ということで世間のバッシングを受けた祖父(と妹)
    はどこかへ引っ越してしまっていて行方不明で、
    お金が底をついたこともあり由希は援助交際をしようとするわけですが、
    そうはさせじと援助交際相手が運転する自動車を光一が追いかけると。
    ひどく渋滞しているとか1ブロック先の交差点で信号待ちとかならともかく、
    そんな数ブロックも普通速度で先行した自動車に人間の足で追いつけるわけがありません。

    そしてラスト、以下ネタばれになるので何ですが、
    母が集団自殺したことを知って光一は嘆き悲しむわけですが、
    いくら苦悩したからと言って一気に白髪になどなるわけがありません。
    これから生えてくる部分について色素が無くなるということはあり得るにしても、
    既に生えてしまっている髪の毛の色素がどうやって抜けるのか。
    いっそ髪の毛が全部抜け落ちてしまって禿げてしまうというのなら分かるのですが。

    そして最後、祖父から妹・朝子を「取り戻し」た光一は由希と3人で歩いていくわけですが、
    この現代日本で子どもだけ3人でいったいどうして生活していくのでしょうか。
    「解決策」としては全く非現実的であると言わざるを得ません。
    昨年話題になった映画『誰も知らない』(是枝裕和監督)と同様、
    一番下の妹を死なせてしまうというのがオチでしょう。
    あるいは、これまた『誰も知らない』のラストで暗示されていた(?)のと同様、
    一番上の少女が援助交際で稼いでいくというのが「現実的」な解決策です。
    それをこの映画は「現実」へのオールタナティブとして提示しているのでしょうか?

    荒唐無稽さを寓話として「好意的」に解釈するならば、この映画のテーマは
    「なぜ我々の社会はオウムを生み出したか、そして今後も生み出されるのか」でしょう。
    ラストの祖父からの別離は「出家」の象徴として描かれたものでしょう。
    それがどんなに非現実的に見えるとしても、そうせざるを得ないほど、
    現世は「汚く」、生きづらいということなのでしょう。

    この現世の「汚さ」、生きづらさというのは、
    例えば祖父の家が「謝罪しろ」「親として責任を取れ」などといった落書き
    で埋め尽くされていたことにも暗示されています。
    「社会復帰」しようとしても、世間の側がそれを許さず排除しようとすると。
    一方、カルト教団「ニルヴァーナ」は、教義に背いた光一が折檻を受けるなど、
    いわゆるカルトによる人権侵害な側面も描かれているものの、
    むしろ温かく描かれているようにも感じられます。
    祖父の引越し先が知れずに途方に暮れる中、偶然(それにしても偶然が多すぎる!)
    子供班の教育係だった男(カンカー・レーヴァタ正悟師にちょっとだけ似ている)
    に出会うわけですが、その胸の中に飛び込んでいった光一の姿には、
    単なる教団内での上下関係に留まらない信頼関係が感じられます。
    (人によっては「マインドコントロールが解けていない」と言うのでしょうが。)
    そして、元信者たちが肩を寄せ合って営むリサイクル工場(コスモリサイクル!)
    こそが、この映画の中で最も生き生きと心安らぐ様に描かれているのには、
    「こんなに『オウム寄り』でいいのだろうか」と他人事ながら心配になったほどです(笑)。
    また、エンディングに流れる音楽は尾崎豊を髣髴とさせるものがあり、
    それはすなわちアーナンダこと井上嘉浩を髣髴とさせるものでもあります。

    そしてラスト、これまたネタばれなので何ですが、
    家族というものを取替えのきく道具か材料のように思っている光一の祖父を、
    由希がドライバーで殺そうとするのを白髪になった光一が押し止め、
    祖父に対して「我は汝を赦す者なり」と語りかけるわけですが、
    この古風な言い回しは明らかに寓話として提示されているわけです。
    白髪もまた、「解脱」の象徴として提示されているのでしょう。
    しかし、「赦す」とはまたあまりにも傲慢な言い草であると言わざるを得ません。
    自分が「上」であることを前提とした上で、なおかつ、
    「赦す」ことが出来るほど人間が出来ていることを誇示しているわけなのですから。

    しかしそれよりも私は、ここに塩田監督の密かな願望を感じ取ってしまうのです。
    光一たちの親の世代にあたり、「自分もオウムに行っていたかも知れない」とともに、
    「オウムを生み出してしまった側」でもあると自覚しているであろう塩田監督は、
    この一言を言ってもらいたかったがために映画を作ったのではないか。
    そうだとすると、この映画は、あえて自らの加害者性を強調するまさにそのことによって
    加害者性から免責されようとする戦後知識人の系列に連なることとなります。

    しかし、今求められていることは、アリバイ作りではなく、具体的な対案の提示のはずです。
    その対案が、それと明示されてはおらずあくまで私の「深読み」に過ぎないわけですが、
    野垂れ死にもしくは援助交際というのでは絶望的に過ぎます。
    あるいは、「絶望的な状況であることを自覚せよ」ということなのかも知れませんが。
    それを言うならば、一見して下手糞な台詞まわしや痛々しい歌の場面も、
    ブレヒトの言うところの「異化効果」を狙ったものかも知れません。
    そのようにして「擁護」が可能であるとは言え、
    しかし「擁護」を必要とする映画であるという事実には変わりがないように思われます。

    よって……「物好き」以外にはお勧めできない映画と言わざるを得ません。
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